日本語センター
朗読コンテスト
この朗読コンテストは、日本語センターが、NHK話しことば通信添削講座「最新朗読」の受講者を対象に、毎年2回行っています。
第66回朗読コンテスト受賞者決まる。大賞、優秀賞受賞者の朗読をホームページでご紹介。
通信添削「最新朗読」 2020年前期、第66回朗読コンテストの受賞者が決まりました。
大賞・銀 1人、優秀賞 7人、優良賞 18人、奨励賞 14人です。受賞されたみなさま、おめでとうございます。
大賞、優秀賞のみなさんの朗読の一部を、受賞のコメントとともに、日本語センターのホームページでご紹介しています。どうぞお聴きください。また、今期の選考委員長、榊寿之・日本語センター専門委員の講評も掲載しています。こちらもどうぞご覧ください。
第66回 朗読コンテスト結果(五十音順、敬称略)
大賞・銀賞 1名
- 枝川 雍子(兵庫県)
優秀賞 7名
- 岩本 康子(兵庫県)
- 大岩 知恵子(愛知県)
- 串岡 登美江(神奈川県)
- 瀨畑 雅惠(広島県)
- 中屋 安子(和歌山県)
- 半田 和世(静岡県)
- 谷島 みつ恵(茨城県)
優良賞 18名
- 赤星 幸子(和歌山県)
- 井上 暢子(北海道)
- 大島 都思(広島県)
- 勝屋 紀代子(大阪府)
- 栗田 三代子(静岡県)
- 坂田 恵美子(和歌山県)
- 笹川 直子(兵庫県)
- 柴田 和子(静岡県)
- 白澤 真樹子(北海道)
- 関谷 直美(新潟県)
- 中川原 詳子(福岡県)
- 林 栄子(北海道)
- 本村 郁子(熊本県)
- 増池 ふさゑ(京都府)
- 松井 美智子(兵庫県)
- 三宅 佳代子(岡山県)
- 山下 昌子(三重県)
- 吉岡 幸子(岩手県)
奨励賞 14名
第66回朗読コンテスト 受賞者の朗読
受賞者の朗読 |
*写真をクリックすると音声の一部をお聞きになれます |
大賞・銀賞 | |
枝川 雍子さん(兵庫県) 最終行で、聴く方に自分なりの人形を |
優秀賞 | |
岩本 康子さん(兵庫県) 石垣りんさんが好きで、好きな方の作品を |
大岩 知恵子さん(愛知県) 一句一文を吟味する朗読の奥深さと愉しさを、 |
串岡 登美江さん(神奈川県) 息で読む、フレーズを止める、変化を工夫 |
瀨畑 雅惠さん(広島県) 段落の切り変え・違いをもっと研修しな |
中屋 安子さん(和歌山県) 先生方の丁寧なご指導、先輩方や仲間のお |
半田 和世さん(静岡県) 初受賞を励みに、これからも大好きな朗 |
谷島 みつ恵さん(茨城県) 先生方のアドバイスに、どれほど勇気づけ |
■ 音声を閉じる *IE10以上をご使用ください |
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※「第66回 最新朗読コンテストCD」及び過去の朗読コンテストCD(第56回~65回)をご希望の方は、「NHK放送研修センター」03-3415-7121)までお電話ください。 |
選考を終えて
前期コンテストの最終選考を担当することになりました。よろしくお願いいたします。
今回は、石垣りんさんのエッセイが課題文でした。いかがでしたか。
「エッセイは好きだけど、朗読するのは難しくて、苦手」という声をよく聞きます。エッセイの朗読がどうしても単調で一本調子になってしまう。そんな経験を持つ人は意外に多いようです。
なぜでしょうか。
エッセイが、作者の身近な体験や、思い、といったものを、淡々と語っている場合が多いのがその一因でしょう。そのため、小説や物語の持つ、劇的な展開といった要素がどうしても少なくなります。ですから、読み手が、「変化の組み立て」を工夫しないと、どうしても平板・単調になって、作者の述べている内容を、そして思いを、聞き手に届けにくいのです。
では、どう組み立てるか。
もちろん、それは内容の変化に応じた組み立てです。
課題文の中心は、まず「妹の死とそれにまつわる人形の思い出」と考えていいでしょう。さらに、それが作者にとって思い出深い、伊豆の景色や風物と相まって描かれています。
この作品を読んでいるうち、私には、音楽の「長調」と「短調」の音調の違いが、なぜか感じられました。
「長調」は、明るさを感じる音調、一方「短調」は哀愁・もの悲しさを表す音調です。
この作品には、この二つ異なった要素があるのではないか。それを組み立てに生かしたらどうだろうか。そんな考えです。
「長調」は、冒頭の [雲見のセンゲンさーん] に代表される段落です。車窓から見えた烏帽子形の山に、思わず呼びかける石垣さんの心は、喜びと懐かしさでいっぱいでしょう。それに続く、姉さん山の古い言い伝え。これも、日本一の富士山と地元の烏帽子山の姉妹関係に、なんとも言えないほのぼのとした明るさとほほえましさを感じます。
そんな明るい出だしで始まったエッセイは、妹の思い出、その死と人形への後悔へと移ってゆきます。「短調」のもの悲しい旋律が聞こえてきそうです。音調の変化を工夫しましょう。オーバーに切り替える必要はありません。まず、その変化を「思う」ことです。「思えば出る」という宇野重吉さんのことばを思い出します。
そして、妹が聞かせてくれた田舎の話の段落へ。ここでは、思い切った切り替え、音楽で言う転調したいところです。鏝絵の美しさ、遠足の長者ヶ原の素晴らしさ、楽しさ、まさに「長調」の音調です。天神原でのなつかしさ、海の水平線の様子も同様でしょう。「背伸びしているように」という表現に、弾むような気持が感じられます。コンテスト受賞者の中には、この段落の切り替えの見事な人がいました。
このように、「長調」と「短調」、明と暗を織りなした話は、最後の4行にたどりつきます。なんとも不思議な、そして幻想的な段落です。人影がない集落で出会う3歳くらいの男の子。謎めいていますね。
その情景がもう一度、人形を思い起こさせる。静かな切ない音色が聞こえてきそうです。詩人でもある石垣さんの詩情のようなものも感じませんか。柔らかい音で、石垣さんの思いを乗せて表現したいですね。
内容の変化を組み立てる一例として、参考にしてみてください。
もちろん、こう読まなければいけないということではありません。この他にも組み立ての方法はあるでしょう。大事なことは、単調に読まずに、作品の中の変化を自分なりの感覚でつかもうとすることです。
そして、エッセイでは、なによりも「話すこと」が求められます。石垣りんさんになって聞き手に語りかける。そのとき、必要なものが、聞き手に発信する息、ことばを起こすための1音目の母音の意識なのでしょう。
話しかけているか。単調・一本調子ではない変化が表現できたか。
なかなか難しい課題文に、皆さん果敢に挑戦していただきました。お疲れ様でした。