【特別企画】三宅民夫アナウンサーに聞く円滑な会議の進行術



――NHKの大型討論番組を長年経験

(三宅アナウンサー)まず私自身の体験について。NHKに入局して初任地の盛岡放送局時代に、アメリカのボストンに留学させてもらった。そこでは、そのあと日本でも流行するローカルのワイドニュースが放送されていた。一方私にはもう一つ強く心をひかれる番組があった。多くの市民が集まり時に熱く語りあう視聴者参加の番組で、人気があった。日本では四半世紀近くが過ぎた西暦2000年前後からNHKスペシャルでも参加型番組が始まっていく。グローバル化に伴って格差社会が進み、もっと真相が知りたいとか、今の世の中がどうなっているのかということへの視聴者の関心が高まった。そういう中で2005年、(三宅アナウンサーが司会を務める)「日本の、これから」がはじまった。市民が主役の討論番組だ。この時期、NHKの不祥事もあって、NHKに対して世間の目は厳しくなり、NHKとしても社会にもっとしっかり向き合わないといけないという危機感があった。この「日本の、これから」の後が「日本新生」。参加型の討論番組の進行はすごく大変で、まとまりがないごちゃごちゃしたカオスのような状態になることもあった。どうしたらいいのか。2005年に「日本の、これから」がはじまって間もないころ、番組スタッフが基本認識5か条をまとめた。「スタジオが最大の番組の現場」「有識者の人だけでなく市民も大切にする」などの基本認識だ。どうすれば議論が活性化し、深まるか、皆で知恵を絞った。ディレクターの人たちはおもしろそうなものを映像で撮ってきて、それをつなぐのがスタジオだと考える。ところがそれを受けた議論となると、VTRで全部コメントを言われていたりして、スタジオの参加者は何を話せばいいかわからなくなることがあった。それよりも、いったいこの番組はどういうテーマで何を伝えるのか。議論を進めていくための柱は何なのか。骨太の2、3本の小さな柱となるテーマがあり、それが的確な順番に並んでいれば、討論番組として十分に成り立つということに、番組スタッフも三宅もやがて気づいていった。

 

――番組司会に学ぶPOINT①アジェンダ設定

 話し合うべき骨太のテーマ。「日曜討論」でも項目を示したりする。あれがアジェンダ。話し合うべきテーマと、それについての最新の様々な立場の専門家の考え方が出てくると議論が盛り上がる。テーマ設定では、議論が盛んになりやすいテーマを選ぶ。ニッチなテーマでも、柱建ては骨太に構成する。そうすると参加者が具体的にどういう柱で議論していけばいいのか、理解しやすい。本番に向けては、そのアジェンダでいいのかどうかを研ぎ澄ましていき、そのアジェンダを語る上でのVTRをそろえていく。そこをしっかりやらないと、最終的に議論が盛り上がらない。このテーマ設定と議論の柱建ての作業は、普段の会議でも同じように成功のカギを握る。実際の議論に入る前に、ファシリテーターがしっかり準備しておくべきことだと思う。実際の討論では、物事の本質に詳しい専門家や実際に現場を体験している市民などの意見を受け止めつつ議論を進めていく。大まかな構成はあるが、細かい台本はない。そういう中でどうするか、進行役が事前にシミュレーションをする。シミュレーションをしておいて、それよりおもしろいことが出てきたら臨機応変に、柔軟に対応していく。

――番組司会に学ぶPOINT②事前のシミュレーション

 出演者の数が多い討論番組では、事前に会って全員の話を聞くことは不可能。あの人の話は聞いて、この人の話は聞かないという訳にもいかない。じゃあどうするのか。その出演者を取材したスタッフに話を聞く。このゲストはこのテーマについてどんな話をされていたのか、取材したディレクターに詳しく取材する。その専門家・出演者の著書や記事等にもしっかり目を通す。そういうことを経た上で、ゲスト・専門家の意見を対立させて並べて、回しの順番など、ある程度の流れの想定をしていく。このシミュレーションをしておくと、進行役の頭の中で考えが深まる。編集をすると物事がよく見えてくるということがあるが、それとよく似た作業だ。



――番組司会と共通点の多いファシリテーショ

 討論では、参加者にそのテーマについての自分の考え方を事前にまとめてもらうことも大事。喧々諤々もいいけど、具体的にこういうこともやっている、やれるのでは、という議論をしていくことで、解決策につながっていった。会社や学校などでの実際のファシリテーションでは、報告中心の場合や、議決が必要なもの、アイデアを出していくものや、ブレーンストーミング的な場合など、様々ある。今日の話し合いは「何をテーマにどこまで決めるか」という点も、ファシリテーターが意識すべき大事なポイント。番組の話に戻ると、今日の番組は何をテーマにどこまでやるのかを、キャスターが視聴者と出演者双方にきちんと説明することがすごく重要。番組冒頭の前説では、「今日のテーマは何」「現状はこうなっています」、そういう中で「今日は何を目指すのか」の3ステップで力強くコメントすることが大事。議論に参加している人は、自分に何が求められているのか、協力したいと思っていてもどう協力したらいいのかがわからない。番組冒頭で3ステップによる話し合いの狙いをキャスターが伝えれば、自分が求められる役割をしっかり把握することができ、安心して討論に参加することができる。ある時、「ためしてガッテン」の担当者が前説のコツを話しているのを聞いた。まず最初に「簡単に作れるチャーハン美味しいですよね」とテーマを伝えた。その次に課題。「でもごはんがぐちゃぐちゃになっちゃいますよね」。それを受けて、「じゃあ今日はどうすればいいのか」と畳みかけていて、見事だった。冒頭でのこの流れがとても大事。

――ファシリテーターの心がけとは

 会議の最初の頃は話がぽんぽんはずむという風にならない。訳がわからないことにならないように、立ち上がりは特に的確にいざない話してもらう。ファシリテーターとしてはまず、発言者の話に集中しないといけない。この人は何を言っているのか、意図は何なのか、結論は何なのか。一方で、次の展開をどうするかも考えなければいけない。話し手の話を聞き、その話を深めながら次の展開を考えていく。ここが大きなポイント。まずは簡単な問いかけ。重要なところが出てくるまでは話を聞きながら深めていって、次の展開に。「こういうことですよね」という確認をして、次のステップに階段を上るように進んでいく。だんだん話が進んでいくと結論まで先に行っちゃうこともある。その時に2つ選択肢がある。せっかく面白い話が出てきたのだから、そのまま行く。もう一つは、その話は一旦置いてあとで話しあう方法。会議でのファシリテーションの場合は、腰を折らないようにそのまま行くのもいいかもしれない。番組の場合は全体の流れや決め事もあり、元に戻すことも多い。議論の中では、予定していなかったけど面白い話が出てくることもある。出てきたら、どうするのか。その時の判断として、自分は4つの座標軸で考えてきた。<おもしろい⇔おもしろくない><意味がある⇔意味がない>で4つのパターンがある。<おもしろい・意味がある>が出てきたら、それはやった方がいい。<おもしろい・意味がない>は、場の雰囲気を和ますために少しはやる意味がある。<おもしろい・意味がある>は最高。みんなの満足感や成果を感じて、次につなげていくことが大事。



【三宅民夫アナウンサープロフィール】

1952年(昭和27年)、愛知県生まれ。1975年(昭和50年)、アナウンサーとしてNHK入局。 初任地は盛岡局。京都局を経て1985年(昭和60年)、東京アナウンス室に異動。 これまでの主な担当番組は、「ひるどき日本列島」「ライバル日本史」「NHKニュースおはよう日本」 「NHK紅白歌合戦総合司会」「日本の、これから」「三宅民夫のマイあさ!」(ラジオ)など。 現在は、NHK放送研修センター専門委員をつとめる。


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